「浅黄 斑」(あさぎ まだら)という小説家がおられることは前から知っていました。「アサギマダラ」で検索すると、「無茶の勘兵衛日月録」という時代劇シリーズなどが上がってきていたからです。最近、近くの図書館でそのシリーズを見つけたので、いくつか読んでみました。このシリーズは20巻くらいが出版されているようで、かなりの長編小説と言えましょう。
その図書館には1、3~9巻しかなく、1、3、8、9巻の4冊を借りました。9巻のカバーの著者紹介には、「関西大学工学部を経て技術系社員として会社勤務の後『雨中の客』で推理小説新人賞を受賞し、文壇デビューを果たす。次いで『死んだ息子の定期券(他)』で第4回日本文芸大賞を受賞し確固たる地位を築く。近年は時代小説に傾注し、徹底した資料収集と分析に基づき、大胆なアイデアと論理的構成で、物語を創り上げて読者を魅了している。」とあります。
「無茶の勘兵衛日月録」シリーズは、江戸時代前記が舞台の時代小説で、越前松平家に関係するいくつかの藩のお家騒動を背景に、越前大野藩で育った「無茶勘」こと落合勘兵衛の成長と活躍を描いたものです。4冊しか読んでいませんが、越前大野、江戸、大坂の公安組織・風俗なども詳しく記されています。特に剣術の記載が秀逸な気がします。
時代小説はあまり読んだことはありませんでした。それでも司馬史観で有名な司馬遼太郎の小説は、綿密な取材に基づく、史実と勘違いされる程の正確な描写が有名で、私もかなり読みました。また、浅田次郎は「平成の泣かせ屋」の異名を持つほどで、『壬生義士伝』や『天切り松闇がたり 闇の花道』などは人情味あふれる作品です。そのように夢中になるほどの魅力はありませんが、「無茶の勘兵衛日月録」シリーズは、時代小説の「青春の門」(五木寛之)といった趣と思います。
ペンネームの「浅黄 斑」は、アサギマダラから取ったものでしょうから、蝶や昆虫には格別な興味があるはずです。たしかに第3巻の158ページに青筋鳳蝶(あおすじあげは)、第8巻「惜別の蝶」の322ページに「シロガネ」・「寿蝶」という地方名でウラギンシジミと思える蝶が登場します。しかし、工学部出身ということもあり、頻出するというほどではありません。
ところで、ウィキペディアでは「1946年- 2020年9月、日本の小説家、推理作家。本名は外本 次男(そともと つぎお)。ペンネームは蝶の一種であるアサギマダラから取られている。・・・2020年9月5日、知人から通報を受けた神戸西警察署の警察官により、死亡しているところを発見された」とありました。残念ながら、死因はわかりませんが、コロナ禍の下で亡くなられたようです。
皆さんも近くの図書館や書店で作品を読んでみてください。