【アサギマダラが移動した2点間の距離の比較】

アサギマダラにマーキングされる皆さんは、きっとどこかで自分が付けたマークのアサギマダラが再捕獲されるのだろうと、期待を込めてマーキングされるのではないでしょうか?メーリングリスト(ML)に参加したり、Facebookなどに書き込み、期待を込めてご自身のマークを探すと思います。そして再捕獲があると、どこをどのように移動したのだろうかと、距離も知りたくなりますし、ルートも知りたくなりますね。

 

そこで、ここ数年間ずっと気になっていた標高を含めた測地線長の比例計算と、球面余弦定理の計算を、Google Earth がはじき出してくれた数値を100として、割合で比較してみました。それが下のグラフです。

私が実際に再捕獲したアサギマダラの6例のデータと、私のマークが各地で再捕獲された47例のデータだけを使用して比較しました。

 

その中には、比較的近い場所での再捕獲が何例もあったために、実質的には45のデータの比較ということになりました。

 

使用した私のデータの標識地はすべて長野県内ですが、長野県内での再捕獲には標識地が山形県、福島県を含みます。再捕獲地は長野県内の他に、愛知県、石川県、京都府、兵庫県、山口県、鹿児島県、沖縄県などに及び、最短距離は小谷村平間から大町市平の22.6km、再長距離は大町市平から沖縄県宮古島市伊良部島の1,776kmの区間です。

 

棒グラフは3つのデータの比較になっていますが、実際の検証はGoogle Erarth を含めて6つのデータの比較です。一つは国土地理院計算サイトのデータ、さらに、そのデータを元に標高とジオイド高を考慮した比例計算によるデータ、もう一つは球面余弦定理による計算です。

 

比例計算と球面余弦定理の計算は、地球の半径を6,370kmと6.371kmの2種類を考慮していますので、合計6例のデータの比較となりました。

 

赤い棒は比例計算によるものです。国土地理院のデータに、地球の半径を6,370kmと6.371kmの2種類を考慮して出した数値ですが、小数点以下13位まで計算してやっと違いが出る程度の差でしたので、比例計算の棒は一つだけを表示させています。

 

緑と青の棒は球面余弦定理です。地球の半径を6,370kmにして計算したのが緑の棒で、地球の半径を6.371kmで計算したのが青の棒です。

 

距離は分かりやすいように大雑把に表記し、23kmから1700kmの間で14の距離だけを表示させています。Google Earth を基準にしていますので、100%の位置にある長い横の紫の線が基準線と理解してください。

 

100%よりも多い数値も少ない数値もありますが、多くて100.01759%、少なくて99.907229%でした。

 

距離だけで見た場合、松本市美ヶ原林道から山口県下関市間の、Google Earth の計測684.15km に対して、球面余弦定理の計算で682.75404km となり、その差は1.3959613km でした。しかし、その割合の差は、99.985212%ですので、大差ない数字と言えます。

 

標高とジオイド高を考慮した比例計算では、ほぼGoogle Earth と一致していると言えます。距離が短い小谷村平間―大町市平間の22.63km(グラフ表示は23km)では、割合で99.907229%、松本市美ヶ原林道―箕輪町東箕輪の35kmでは、割合で99.944849%となり、グラフでは差があるように見えますが、これも大差ない範囲だと思いました。

 

今年の4月頃には今まで使っていたジオイド高が見直されて新しくなるとのことですので、あくまでも目安です。そして、国土地理院のジオイド高は国内だけしか表示されませんので、台湾など、海外で再捕獲されたものの計算には適していません。

 

当然、計算で出した2点間の距離は、直線の最短距離ですので、アサギマダラが実際に直線で移動した訳ではないことは多くの皆さんが知っていることですね。ですので、計測の2点間の距離は、あくまでも目安です。

 

マークを付けて送り出したアサギマダラがどこかで再捕獲された時に、いったいどのくらいの距離を移動したんだろう、翅が傷ついていなかっただろうか、どんな旅をしたんだろう・・・などと、気になるに違いありません。

 

個人的に疑問に思ったことをこのように検証してみたのですが、地上のどの辺りをどのように移動しているのか、アサギマダラ自身が一番よく知っていますね。「こんな計算なんかしなくていいので、わたしたちの生態をもっとしっかり観察してよ。そしてどこに行っても吸蜜植物や食草があるような環境を整えてくれたら嬉しいな」と、アサギマダラたちが言っているような気がしてなりません。

 

皆さんも引き続き、様々な方法で、アサギママダラの色々なことを比較検証してみてください。楽しいですよ。

迷子のアサギマダラ:「ナガノ 八町」「ナガノ アリ川」「ナガノ タカ山」どこから来たの?

◎ すべて標識者が判明し、記録に含めることができました。皆様のご協力、大変有難うございました。 2024年12月28日

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アサギマダラの再捕獲情報でフェイスブックやメーリングリストなどが賑やかですね。この時期には関西方面や九州、四国のみならず、南西諸島や台湾からの報告も始まりましたので、マーカーの皆さんは、ワクワクしているのではないでしょうか。

再捕獲情報があっても、残念ながら標識者にまでたどり着かない情報が毎年いくつも出ています。こちらのマークもそうです。

ナガノ 八町」は、2023年10月28日に徳島県で,「ナガノ アリ川」は、2023年10月24日に高知県で再捕獲されています。

正式な再捕獲情報は出ていませんが、8月の標識と思われる「ナガノ タカ山」マークの問い合わせもありました。

しかし、標識した場所も、誰のマークなのかも、さっぱり分かりません。ご存じの方はいらっしゃいますか?

「ナガノ」マークは、今まで長野県外に在住の方が長野県に来てマーキングする時などで使われていました。地元の皆さんはすでにご自身と何年も前からある標識地のマークを使っていますので、「ナガノ」を使う必要もないわけです。

もしかしたら「ナガノ」は地名ではなく、長野さんか永野さんかも知れませんね。よくあることですけど・・・

さらに地名らしき「八町」ですが、「下八町」は須坂市にある地名で、そこではマーキングができるようにフジバカマが植えられています。しかし、地元の皆さんのマークではないので、どうもそこでもなさそうです。

アリ川」は地名かどうかは不明ですけれど、「タカ山」は、長野県の高山村の可能性も否定できません。

書き方の特徴からして、同じ方のマークだろうと思われますが、きっと長野県内のあちこちに行かれて、そこで出会ったアサギマダラにマーキングしていた可能性もありますね。何箇所かで再捕獲や確認がなされていますので、数としても百頭以上の個体にマーキングされておられるのだろうと思われます。

実は、アサギマダラの移動調査が始まった40年前には、マークが付いたアサギマダラを再捕獲して、何年も掛けて標識者を探し出したという記録があります。その記述を読んだときには、とっても胸が熱くなりました。

そのアサギマダラがどこから来たのか、だれがマーキングしたのか、必死に探したのは、標識者に、「あなたが標識したアサギマダラを再捕獲しましたよ」という情報を届けたかったことと、調査している者も、マークを持ったチョウがいったいどこから来たのかを熱烈に知りたかったからに違いありません。

でもマーキングが一般的になった近年は、情報が多すぎて手が回らないのが現状となってきているのかも知れません。

また、当初のマーキングはアサギマダラの移動調査という目的があってのことでしたが、現在はその目的や動機も、40年前とは変わってきたのかも知れません。

いずれにしても迷子のアサギマダラは毎年数え切れないほど出続けています。これらもその中の一つです。でも再捕獲者や関係者はどこから来たのだろう、だれがマーキングしたのだろうと、標識者が名乗り出てくださるのを待っています。

移動情報は貴重な記録のひとつとして、アサギマダラの会でデータを保存させていただき、相応しい方法で活用させていただいております。マーキングされた方には、ぜひ応えていただきたい願っています。

また、マーキングする方には、ぜひ登録してマーキングしてほしいと願っています。再捕獲を期待してのマーキングでしょうが、再捕獲があっても、登録されていないと、連絡のしようがありません。

「ナガノ 八町」「ナガノ アリ川」「ナガノ タカ山」をご存じの方がいらっしゃれば、情報を提供していただけたら有り難いです。よろしくお願いいたします。

ウスバキトンボの全国調査が始まったようですよ!

赤とんぼとよく勘違いされる「ウスバキトンボ」。実はアサギマダラみたいに長距離を移動しているそうです。

熊本県の益田勝行さんから先日、ウスバキトンボの全国調査が始まったと連絡をいただきました。

益田さんによると「ウスバキトンボは熊本辺りではお盆の頃に、街中の公園等でも沢山見られ、一番市民に身近なトンボかもしれません」とのこと。

マーキングをやってみました」と、画像も提供してくださいました。

マークは8月21日の「F2」。

「ウスバキトンボ全国マーキング調査」のホームページもあります。

https://sites.google.com/view/usubaki/

NHKの「ダーウィンが来た!」で8月28日、2分間の放送があったようです。ご覧になった方も多いでしょうね。

https://www.nhk.jp/p/darwin/ts/8M52YNKXZ4/blog/bl/p9oerqkz41/bp/pMjVEPW75M/

全国マーキング調査のホームページによると、9月8日朝現在、6600頭あまりのウスバキトンボにマーキングがなされ、24頭の再捕獲が報告されています。0.36%の確率なので、再捕獲は近距離かも知れませんね。

益田さんの言われる「一番市民に身近なトンボ」。そう思って、よく通う長野県松本市の東山にある標高1400mから1800m程度の美ヶ原の林道沿いでアサギマダラ調査のついでに探してみました。でもアキアカネは楽に発見できるのに、ウスバキトンボを見つけることはできませんでした。

ところが先日、松本盆地の西側の朝日村の標高900mほどの所に行った折に、空中を舞うアキアカネよりもちょっと大きめのオレンジ色っぽいウスバキトンボを発見しました。最近山ではアキアカネばかり見ていたので「大きい!」と感じました。

ウスバキトンボを探すのって、視線を下向きではなく、ちょっと上向きにしないと見えてこないですね。遠くの山や空の雲に目が行くのに、どうやら私は、目の前を舞う小さな昆虫たちを無視していたようです。

そこで近年撮影したトンボの画像を探してみました。残念ながらウスバキトンボの画像は私の撮影データフォルダの中では見つけることができませんでした。それもそのはず、ほとんど目線を横か下に向けていたのですから。

「ウスバキトンボはあまり止まらない」と後で知るのですが、どうやらそれほど休むこともなく舞い続けているようですね。静止画像は「ウスバキトンボ全国マーキング調査」のホームページにあります。体を水平にして止まる訳ではないようです。上のリンクからご覧になってください。

私は長野県なので、フィールドではいろんな生き物たちに出会います。当然トンボも出会うと時々カメラのレンズを向けてきました。しかし飛翔個体の撮影は非常に難しくて、あんなに大きなオニヤンマでさえも苦労しています。何度も何度も目の前を往復してくれるのにです。

まして空中を舞い続けるウスバキトンボにはレンズを向けることもなく、撮影していたのは木の枝などに止まっている赤とんぼだけだったのです。しょぼんとなりますね。

そんな訳で生体などの詳細は当然私にはわかりません。でもアサギマダラのように、どこかで再捕獲されたら、分からないことがどんどん分かっていくのでしょうね。

今回はウスバキトンボも移動性昆虫のひとつとして非常に興味深いなと思いましたので、ご紹介させていただきました。

益田さん、情報提供を有難うございました。