MLへの報告 ー初心者のためのマーキング講座(6)

今回はアサギマダラなどの移動昆虫のメーリングリスト(ML)「asagi」への報告方法を解説します。MLは、登録されている電子メールアドレスから、決められたメールアドレスにメールを出すと、登録されているメンバー全員に、そのメールが配信されるシステムです。

このMLasagiは、1998年3月に始まった、アサギマダラ関係のMLとしては最も古くて大きいものです。運営は大阪市立自然史博物館(長田学芸員が担当)により行われています。このMLには熱心なアサギマダラのマーキング愛好者のほとんどが参加していますから、前回紹介したスマホ・アプリ経由でアサギマダラ年鑑に登録され、さらにこのMLに標識情報や再捕獲情報をメールで流しておけば、完璧なデータ報告となります。

このMLに参加登録するには、アサギマダラ・マーカーの広場の左中央をご覧ください。無料で登録できます。MLに登録されると、10月などの最盛期には1日あたり10通以上の再捕獲メールが届きます。それでご自分の標識したアサギマダラが再捕獲されたらすぐにわかります。あまりのメール数の多さに支障をきたすことがありますので、仕事関係のメールアドレスではなく、Gmailなどの別なフリーメールアドレスを登録すると便利でしょう。

ところが、検索が容易という利点もあるGmailでMLにメールを出しても、MLからのメールが自分には戻ってこない(メール容量削減のために同じIDのメールを蓄積しない?)仕様になっていますから、ご承知ください。他のフリーメールアドレスでは戻ってくると思います。MLに参加したら、届くメールをしばらく見て慣れてください。

前回紹介したスマホ・アプリで標識情報を登録すると、このMLへの報告に適した形式に変換して表示してくれる方法があります。標識記録を入力した後に、
http://www.asagi-org.jp/mark-hyoji.html
というURLをクリックすると表示されます。それらの必要な部分だけを選択・コピーします。このマーキング講座で紹介した白馬山で標識・入力したデータをペーストすると、次のようになります。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

標識  :IKA 002-014 HDG 10.10
全頭数 :13
オス数 :8
メス数 :5
標識地 :和歌山県有田川町宇井苔白馬山麓
標高 (m):632
北緯東経:34.0122,135.3649
標識日 :2021-10-10T00:00:00.000Z
標識者 :金澤 至
備考  :ほとんどヨシノアザミ訪花。
報告者 :金澤 至

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標識日の時間が入力されていませんので、「T00:00:00.000Z」になっていますが、この部分は削除してかまいません。これをMLasagiへの報告メールにペーストして、他の参加者のメールにならって、前書きなどをつけて出せばよいでしょう。

次回は捕獲したアサギマダラにマークがあった(再捕獲)ときの対応方法を解説する予定です。

再捕獲の処理 -初心者のためのマーキング講座(7)

マークのついたアサギマダラを見つけたら -初心者のためのマーキング講座(2)

マークを付ける準備 -初心者のためのマーキング講座(3)

マークを付けよう! -初心者のためのマーキング講座(4)

位置情報とスマホ・アプリ -初心者のためのマーキング講座(5)

位置情報とスマホ・アプリ ー初心者のためのマーキング講座(5)

前回紹介した記載例にある緯度経度(34.0122,135.5649)は、実は後でパソコン(PC)のグーグルマップで調べたものです。最近開発した、位置情報も入力してくれるスマホ・アプリを使おうと思ったら、電波が届かずに困ったのです。今回はそのあたりを解説します。

再捕獲があると、標識地と再捕獲地の間の直線距離を移動距離として報告します。アサギマダラは直線で飛ぶことはありませんので、私たちはあくまで目安と考えていますが、特に最長距離移動はマスコミなどでは昔から重要な情報として扱われてきました。標識地の位置情報を明記しておかないと、白馬山などの地名で適当に計算されてしまいます。どんどんデータの質が低下していきます。

位置情報としては、スマホがない頃は、分布図の作成などでメッシュコードが活用されていました。緯度経度(60進法)は昔からありましたが、度分秒など表記法が様ざまで、あまり活用されませんでした。メッシュコードが使われなくなった原因は、このコードが基本とする日本測地系と世界測地系が約450mずれていて、変換が必要となったことが大きいと思います。そしてインターネットとスマホの普及が決定的でした。そこでは世界測地系の緯度経度(10進法)が基本でした。精度によって小数点以下の桁数が異なりますが、半角と全角の違いくらいで誰が入力してもあまり変わりません。私は小数点以下4桁まで(全て半角数字)を基本にしています。日本周辺に関しては、「N(北緯)」と「E(東経)」は必要ないでしょう。

PCのグーグルマップで緯度経度(10進法)を調べるには、調査地点を表示させ、その地点を右クリックすると表示される窓の一番上に緯度経度があります。その数字を左クリックすると、クリップボードに保存されますから、必要なところにペーストできます。あるいは、「この場所について」をクリックすると、最下段に住所と緯度経度が表示されますので、選択してコピーできます。

最近、スマホ・タブレット・PCで動くマーキング用アプリが開発されました。

Marking Helper

です。ぜひご覧ください。

その日にマーキング作業が終了したら、その現場で入力するのがおすすめです。まずスマホの位置情報をオンにしてください。そしてこのアプリを起動すると、地図上にこのアプリで入力された再捕獲記録がアイコンで表示されます。右下のななめの→を押すと、ご自分の位置が表示されます。その下のアイコンを押すと、左の写真のようにリスト表示になります。最下段右端の使用方法のタブを押す(クリック)と、説明が読めます。中央の標識記録を押すと入力された記録が表示されます。

右上の+を押すと、標識記録を追加入力できます。標識、オスの数、メスの数などのまとめ入力なので、代表的なものを1つだけ現場で入力して、右上の完了を押すと記録されます。入力途中にある「現在位置を使用」をチェックすると、位置情報を自動的に取得して入力してくれます。これがとても便利です。そして、家でその記録を表示させ、右上のペンアイコンを押すと、修正することができますから、まとめ入力を完成するといいでしょう。英数字は全て半角で入力してください。

標識したデータをきちんと入力していただければ、年末に私の方でアサギマダラ年鑑にまとめて書き込む予定です。その時点で中途半端なデータは削除します。それまでにきちんと修正しておいてください。注意事項としては、修正などはご自分のデータだけにしてください。いたずらは禁止ですし、記録されています。

次回はメーリングリスト(ML)への報告方法などを解説します。

MLへの報告 -初心者のためのマーキング講座(6)

マークのついたアサギマダラを見つけたら -初心者のためのマーキング講座(2)

マークを付ける準備 -初心者のためのマーキング講座(3)

マークを付けよう! -初心者のためのマーキング講座(4)

マークを付けよう! ー初心者のためのマーキング講座(4)

さあマーキングをやってみましょう。フジバカマ類に訪花しているアサギマダラを発見したら、捕虫網で捕獲しましょう。吸蜜している個体を捕獲するのが最も簡単です。午後にオスがよく行う占有飛翔のように、くるくると上空を飛翔していて、おりて来ないときには、左手(利き手でない方)で白いタオルを回転させると、誘引されておりてくることがあります。それを右手(利き手)の捕虫網で捕獲します。これをタオル・キャッチなどと呼びます。末尾に記載したリンクの動画をご覧ください。捕獲したら、すぐに捕虫網をひねって、逃さないようにしてください。公共の場で、他に観察・撮影している人がいたら、それが終ってから捕獲してください。

捕虫網の中のアサギマダラを網の外から押さえながら、中に手を入れて胸をつかみます。ハネや触角などを破損させないでください。ハネの腹側の白っぽいところに細書フェルトペンでマークを書きます。私は、写真撮影されやすく、一番目立つ後バネ両側に個人記号(Itaru KAnazawa→IKA)と個体番号(100頭以内でおさまれば01~)を書きます。これさえわかれば、どの個体かは後で記載する記録を調べればわかります。そして前バネの片方に地名記号(OSAka→OSA)と日付(10月13日→10.13)を書きます。

記号を3文字にしているのは、他の多くの愛好者と重複しにくく、区別しやすいからです。今でもカタカナなどを使っている愛好者がいますが、チュウゴクやロシアなど外国で再捕獲されたときのことを考慮して、マークは英数字のみにしましょう。

間違って書いたり、読みにくい文字になったら、両側の白っぽい部分を使って正しく書きなおしてください。毎年判読不能なマークがいくつか見つかります。読めなくては、マークをつける意味はありません。マークを書いたら安心してすぐに放蝶しないでください。放蝶する前にきちんと用紙に記載しましょう

準備の回で説明したPDFをダウンロードして、プリンタでA4用紙に印刷した記録用紙に、次のように記載します。

これは2021年10月10日に和歌山県日高川町と有田川町の境界付近にある白馬(しらま)山麓で標識した記録の一部です。きたない字ですみません(笑)。10月になっても暑く、なかなか平地に降りてこないと思ったら、標高600m以上の山地にあるヨシノアザミに訪花していました。当初は日高川町だと思っていたので、(HiDakaGawa→)HDGと付けていましたが、翌日からは(AriDaGawa→)ADGと付けるようにしました。白馬山なので、SRMという記号も考えられますが、あまり細かく分けない方が、わかりやすいでしょう。空白は記入忘れではなく、「上と同じ」という意味です。急いで書いているので、自分なりのルールで記入しています。初心者は記入忘れと区別するために、全部に何か書く方がいいでしょうね。

オスとメスの区別は、第1回の解説をご覧ください。気温の下の数字が湿度(%)です。鮮度については、羽化したてに見えるものはN、全体に色あせて見えるものはO、どちらとも判断がつきにくいものはMに○をしてください。初心者は必要ありませんが、前翅長は胸部の白点(用紙の裏面に写真があります)から前バネの先端までの直線距離です。測定する場合には、きちんと測りましょう。自由研究などでは、前翅長をグラフにするとおもしろいでしょう。鳥などの攻撃跡(ビークマークと呼びます)などで破損があるときは有に○をつけます。備考欄には訪花植物名や、メスであれば未交尾(交尾痕がありません)か否かなどを記入します。アサギマダラ以外のカバマダラなどに標識したら、ここに「カバマダラ」と記入してください。

記載したら、手の上にのせて、「元気に旅をしてね」と声をかけてあげて、放蝶してください。全個体は必要ありませんが、記念すべきその日の1頭目は、写真を撮影しておくといいでしょう。人によっては、マークを付けた全個体を撮影されている猛者もおられます。私は無理ですが(笑)。

次は緯度経度とスマホアプリを解説する予定です。

アサギマダラのタオル・キャッチの動画・・・﨑山孝也さんのFaceBookの動画です。FBにログインすると見れるはずです。

位置情報とスマホ・アプリ -初心者のためのマーキング講座(5)

マークのついたアサギマダラを見つけたら -初心者のためのマーキング講座(2)

マークを付ける準備 -初心者のためのマーキング講座(3)

マークを付ける準備 ー初心者のためのマーキング講座(3)

3回目の今回からは、いよいよマーキングの方法についての解説です。マーキング調査は、標識再捕(獲)法とも呼ばれていて、本来は全個体数推定のための調査方法です。移動性の強いアサギマダラでは、個体数を推定しにくいこともあって、むしろ移動を証明したり、移動の様子を理解するために行われています。

具体的な解説の前にまず注意事項を説明します。

昆虫であるアサギマダラは、鳥獣保護管理法という法律で守られている野鳥などと異なり、誰でも捕獲してマーキングを行うことができます。しかし、マーキングを行ったら、記録してきちんと報告しましょう。捕獲が禁止されている特別保護地区や私有地などでのマーキング、その行為が禁止されている自宅研修期間中のものなど、実名で報告できないマーキングは止めてください。現実に過去にそれらの行為がありました。そのマーク個体を発見して喜ぶ子供たちなどが、後のち標識者がわからずにがっかりしますし、全てのデータの信頼性が極端に低下していきます。報告の方法は最後に説明します。

その他の注意点としては、捕虫網に多数のアサギマダラを入れて、日なたに長時間放置しないことです。捕虫網の中でバタバタとはばたき、ハネが破損しますし、強い日射しに長く当たることで、あっという間に全部死んでしまいます。1頭捕獲してマークを付けて放蝶後に、次の捕獲をするのがベストです。アサギマダラは別な個体がいると、安心して飛来します。フジバカマ類に訪花している数頭のアサギマダラを全て捕獲してしまうと、他から飛来しなくなります。

また、アサギマダラを捕獲すると、背中あたりに黄色の水滴を出すことがあります。そして少し匂いがします。アサギマダラなどのマダラチョウ類は、体内に特殊な毒成分を含み、鳥などの捕食者から身を守っています。蝶・蛾類は多数の種からなるグループですが、その中で見た目がはでな蝶の仲間は、どれも多少の毒を含むと考えられます。蝶の中でもアサギマダラは、特に毒成分をうまく利用して身を守っており、そのせいか優雅に飛翔します。アサギマダラの体全体に毒成分があるので、素手でさわった指で自分の目をこすることは止めてください。マーキング作業を終えたら、必ず手洗いをお願いします。

必要なものは、捕虫網(愛好者は釣り用玉網とナイロンネットを使うが、初心者はスーパーなどで入手できるものでよい)、油性フェルトペン(黒色細書で、コンビニなどで入手できる)、記録用紙(マーキング解説付きの汎用記録用紙PDFが末尾のURLからダウンロードできる)、記録用ペン(黒色ボールペンJETSTREAMがおすすめ)、そしてスマホです。他に私は定規(前翅長を測定するなら。10センチで透明なものが使いやすい)、気温計(湿度も測定できるもの)、高度計(腕時計内蔵)、白色タオル(片方を結んでおく)を持参しますが、なくてもかまわないでしょう。夏休みの自由研究のテーマとしてマーキングをするのであれば、なんとか準備してください。

次回は具体的な作業を解説する予定です。

マーキング解説付きの汎用記録用紙PDF

マークを付けよう! -初心者のためのマーキング講座(4)

マークのついたアサギマダラを見つけたら -初心者のためのマーキング講座(2)

初心者のためのマーキング講座の2回目は、アサギマダラのハネにマークがあったらどうするか、という解説です。

アサギマダラ自体は、10月の西日本の平地でよく見られますので、稀少種という扱いではありません。私たち愛好者は、どこでアサギマダラが見られたか、に関心がありますが、その目撃記録を全て収集しているわけではありません。しかし、ハネにマークがついたアサギマダラについては、情報を集めています。

マークのついたアサギマダラを見つけたら、ぜひ捕獲して写真を撮影してください。捕獲は捕虫網がないと困難と思います。発見してすぐに捕獲しないと、たいていは南西方向への移動の途中に腹ごしらえしているところなので、飛び去ってしまう可能性があります。撮影は専用の接写拡大用のマクロレンズ付きカメラでなくても、最近のスマホのカメラは高性能なので、うまく撮影できるでしょう。左右のハネにマークが書いてあることも多いので、左手でつぶさないように胸を押さえて、両側を撮影してください。きれいに撮影できたら、放してあげてもいいです。

しばらく保管するためには、三角紙に入れると、おとなしくなります。三角紙がなければ、チラシなどの四角の紙を斜めに折って余分なところをさらに折ると、三角紙になります。その中に入れてあげます。虫かごに入れると、バタバタしてハネが痛んで、かわいそうな姿になります。弱いハネの先端をつかまずに胸をつかむようにしましょう。やさしく扱ってください。

餌をあたえる方法は、皿の上にティッシュを丸めて、黒砂糖、ハチミツ、スポーツ飲料などの水溶液をうすめて浸します。そこに脚をつけてやります。うまく口吻を伸ばして吸わなければ、楊枝などで口吻を伸ばして、ティッシュにくっつけてやります。それでしばらく吸汁すると思います。十分吸うと、室内を飛んで、明るい窓の方に飛んでいきます。

このブログのトップページにもある上の写真のアサギマダラに付けられたマークは、「OSA 10/13 IKA 229」です。大阪(OSA)で10月13日に金澤至(イニシャル3文字IKA)がその年の229番目にマークした個体という意味です。このように、地名記号、日付、個人記号、個体番号の4要素をハネに書くことになっています。この頃は10月13日を「10/13」と書いていましたが、最近では「10.13」と書いています。「/」が「1」に間違われやすいからです。

以上をふまえて、写真撮影されたマークを読んでください。うまく読めれば、その記号と性別、捕獲した地点、捕獲者、日付を教えていただければ、とてもありがたいです。連絡先は、各地の自然系博物館の昆虫担当か、大阪市立自然史博物館(TEL06-6697-6221)、あるいはアサギマダラの会です。うまく判読できない場合には、このサイトに書いてあるメールアドレスに写真を添付して送っていただいてもいいです。よろしくお願いいたします。

ただし、同所再捕獲というものも多いのです。フジバカマ類がたくさんあるところで、マーキング愛好者がマークをつけたアサギマダラが、その同じ場所で別な方に撮影されることがあります。当日撮影されたり、数日後に撮影されることもあります。同じ場所に数日間滞在したという事実を示す同所再捕獲で、価値のある再捕獲なのです。しかし、この同所再捕獲が多すぎて、どうしても別な場所で再捕獲される異所再捕獲に比べると軽い扱いになってしまいます。異所再捕獲だけでも毎年1000例以上が記録されますので、現実には同所再捕獲は再捕獲として扱うことができない状態になっています。

旅をするチョウ アサギマダラに会いに行こう! ーポイント案内1ー

アサギマダラを見つけたら -初心者のためのマーキング講座(1)

アサギマダラは、北米のオオカバマダラのように、1000キロ以上も旅をする謎の蝶です。その生活は40年以上にわたるマーキング調査によって、少しずつ明らかになってきました。その謎の蝶がこの日本に生息することに、私たち愛好者は感謝しながら調査を実施しています。アサギマダラは国境を越えて人と人を結びつける稀有な蝶です。あなたもこの調査に参加してみませんか。

アサギマダラの会の昨年の総会で、アサギマダラのマーキング初心者向けの解説がほしい、という意見がありました。そこで、「初心者のためのマーキング講座」シリーズとして連載を開始したいと思います。今月中に連載を終了し、今後アップデートしていく予定です。その最初の回であるこの小文は、アサギマダラを見つけたらどうしたらよいか、という解説です。

このブログのトップページにも使っているこの写真は、コバノフジバカマ(絶滅が心配されている秋の七草のフジバカマではありません)に訪花しているアサギマダラのオスですが、マークがつけられています。大阪市内で10月に撮影された写真です。

西日本の平地では、9月末から10月末までの約1か月間にフジバカマ類に訪花するアサギマダラがよく見られます。植物園や、神社、庭に植栽されたフジバカマ類や、山地に自生するヒヨドリバナの花蜜には特殊なピロリジジン・アルカロイド(PA)が含まれ、アサギマダラのオスが主に誘引されます。

下の写真のように、メスは後バネの末端近くの黒い性斑がなく、フジバカマ類にはあまり誘引されません。林内にいて、食草に産卵しながら、コシアブラなどの別な花で吸蜜します。この写真は、日本でこのアサギマダラに標識された西川尚実さんによると、中国のカメラマンで侯鈞毛さん(”毛”の部分が日本のフォントにはなく表示できません。正確には毛でも手でもなく、”毛”のしの部分がまっすぐの漢字らしいです)が台湾の蘭嶼島で撮影されたもので、長野県から移動してシロノセンダングサ類に訪花したメスです。長距離を移動したアサギマダラですから、全体に色あせており、ハネのあちこちが破損しています。苦難の長旅の過酷さがしのばれます。

アサギマダラを見つけたら、よく観察してください。ハネに文字が書いてあれば、それがマークで、その文字を判読すると、どこから飛来したかがわかります。最近では1年間に約10万頭のアサギマダラにマークが付けられています。皆さんが見つけるアサギマダラにもマークが付いている可能性は高いのです。

知ってる? アサギマダラ! ー旅をするチョウー

マークのついたアサギマダラを見つけたら -初心者のためのマーキング講座(2)

「募集終了!」アサギマダラの会主催「大山・夏の調査会」の案内

この案内のイベントは募集を終了しました。今後の参考のために残しておきます。

昨年・一昨年とコロナ禍のために開催できなかったアサギマダラの会主催・夏の調査会を2022年7月22~24日に鳥取県大山にて行います。

鳥取県伯耆大山は、古くから昆虫採集の好適地として知られ、多くのアサギマダラとも出会えます。本会では過去に4回の調査会を開催し、また会員が個人で調査してきたことで、少しずつですが成果を得るに至っていました。22 年度は末尾の添付ファイルの要領にて開催する準備を進めておりますのでお知らせします。

会員の皆様はもちろん、会員外の方もお誘い合わせの上、参加をご検討いただきますようお願いします。申し込み方法など詳細は添付の案内を必ずご覧下さい。よろしくお願いします。アサギマダラの会 事務局 村上豊

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ヒレハリソウ(コンフリー)に訪れた翅がボロボロのアサギマダラ:長野県朝日村

ヨーロッパ原産でムラサキ科の帰化植物ヒレハリソウ(コンフリー)をご存じでしょうか?明治時代に日本に入ってきて、家畜だけではなく人間も天ぷらなどで食用としていた過去の野菜です。そのコンフリーに近年アサギマダラが訪れており、今年もオスの個体を6月1日に確認しました。

(ヒレハリソウ(コンフリー)の周辺を舞う翅がボロボロのアサギマダラ♂:長野県朝日村 2022.6.1)

ボロボロになった翅の様子からして、きっと暖かい地方から、幾つもの山を越えて長野県にやってきた個体だろうと思われます。これがコンフリーの周辺に訪れた個体です。

コンフリーは、恐らく日本各地にどこにでもあるだろうと思いますが、長野県中央部の西側に位置する朝日村でも、どこということもなく点在しています。5月下旬から6月にかけて、薄紫の花を咲かせ、道端や耕作放棄地、家の庭のようなところでよく見かけます。

食べられると聞いていたので、過去に天ぷらにして食べたことがあります。ウドなどの山菜には独特の風味があるのですが、コンフリーにはクセがなく、美味しいわけでもまずい訳でもありませんでした。

でも、そのコンフリーはアルカロイドを含むということで近年は口にすることもないのですが、多年草なので抜かない限りその場所で毎年花を咲かせているのです。

実はそのコンフリーにアサギマダラが来ることを知ったのは2016年のことです。朝日村の実家の庭のコンフリーで、アサギマダラのメスが吸蜜していたからです。

(コンフリー(ヒレハリソウ)で吸蜜するアサギマダラ♀:長野県朝日村2016.6.1)

アサギML(メーリングリスト)で情報を流しましたところ、広島の本田計一先生から「そちらにまだ沢山生えているのなら、オスが集まるかどうかなど(刈り取って乾燥させた方がベター?)調べてみられると面白いと思います」と、お返事いただくことができました。

本田先生にお聞きしましたように、自宅の柿の木の下に、刈り取ったコンフリーの葉っぱを束にして吊るしておきました。コンフリー自体の葉っぱの匂いは、生よりは乾燥の方が強くなっているのを感じることができました。でも、吊るした時期が悪かったのか、山際の家ではないためなのか、アサギマダラは来ませんでした。

その後、北アルプス山麓周辺でコンフリー調べを行いました。行った先々で出会ったら写真撮影して記録した程度ですが、小谷村、大町市、生坂村、松川村、松本市、朝日村など、どこということなく点在するのですが、まとまってある訳でもなく、その周辺をアサギマダラが乱舞する訳でもありませんでした。

実家から持ってきた自宅のコンフリーは数年間そのままにしていましたが、アサギマダラが来ないために5、6株あった株を1株だけ残して昨年抜いてしまいました。

一方、実家の朝日村へは、時々庭や畑などの管理のために出向いており、葉っぱを乾燥させて吊るすまでもなく、コンフリーの枯れ葉は地面にそのままにして、放置していました。近所の家などにもコンフリーがあり、それもそのままの状態でした。

そうした状況の中、昨年5月25日、朝日村の実家の庭でコンフリーの周辺を舞うアサギマダラのオスを観察できました。花が咲き出してからのことです。

(コンフリー(ヒレハリソウ)の周りを飛翔するアサギマダラ♂初見:長野県朝日村2021.5.25)

吸蜜する訳でもないのですが、花の周辺や根元付近を何かを探しているかのようにぐるぐると回りながら舞っているのです。

(コンフリー(ヒレハリソウ)の周りを飛翔するアサギマダラ♂初見:長野県朝日村2021.5.25)

枯れ葉を根元にそのままにしていたので、その乾燥した匂いに引き寄せられたのかも知れません。

今年も草取りなどで朝日村通いを続けていますが、5月には期待していたアサギマダラを確認できないでいました。

しかし6月1日の昨日、庭に乗り入れた車に驚いたようにアサギマダラが一頭、舞い上がりました。その後どことはなしに姿を消してしまいました。また来るかも知れないと期待していた頃に、コンフリーの周辺を翅を忙しく動かして舞うアサギマダラを見つけ、撮影することができました。

(ヒレハリソウ(コンフリー)の根元付近を舞う翅がボロボのアサギマダラ♂2022.6.1)

昨年に引き続き、オスが2回来てくれました!

今年も、枯れて腐りかけたような葉っぱは根元周辺にそのままにしています。その匂いに惹きつけられたのでしょうか?

オオブタクサの新芽も伸び出している、そんな庭にも来てくれたことは嬉しいことです。ネットは車に入れていますが、カメラでの撮影が精一杯で、マークがないことを確認できただけです。

翅の下側がたくさん欠けて、ボロボロになっていました。きっと苦労しながらの北上の途中で立ち寄ってくれたのでしょうね。昨年より7日間遅い、6月に入ってからの確認でした。

長野県ではすでに軽井沢町、宮田村、小谷村、大町市、伊那市、大鹿村などから初見情報が寄せられています。さらに北海道奥尻島からの初見・標識情報も5月中に寄せられています。

引き続き国内各地で観察されたり、マーキングされたりするでしょうね。今後の皆さんからの情報を楽しみにしております。

このオスのアサギマダラにちょっと期待します。素敵なメスと出会えますように。

最近のアサギマダラ関連のWebニュース

最近のアサギマダラ関連のWebニュースを拾い集めてみました。多くの記事は一週間ほどで削除されると思われます。

 

  • アサギマダラ、優美な姿紹介 善通寺で写真展(47NEWS四国新聞(2022年5月28日(土) 会員限定)

https://www.47news.jp/localnews/7840672.html

 

台湾からアサギマダラ飛来 龍郷町長雲峠で再捕獲 マークで判明 南西諸島への北上記録、初の可能性 (Yahoo! Japanニュース ・株式会社奄美新聞社2022年5月27日(金))

https://news.yahoo.co.jp/articles/ead71100be28140a4175bfd3a03bdab2de1d39e8?fbclid=IwAR3rjzRvJPZI-k9JBNA6ZJGBGK-rxa_bQgiQjCxeSVyVzIfkuJpVwTEukms

 

  • 台湾からアサギマダラ飛来 龍郷町長雲峠で再捕獲 マークで判明 南西諸島への北上記録、初の可能性 (奄美新聞社2022年5月27日(金))

https://amamishimbun.co.jp/2022/05/26/38012/?fbclid=IwAR1KstfrV1W10_wEDqAH8f4a_S_5FaqbOEfsf4oZOASk0DQe3sSx5QzVBL0

 

・列島縦断「旅するチョウ」1200匹が島で一息 飛来のピーク 大分 (TOS テレビ大分 2022年5月26日(木))

https://news.yahoo.co.jp/articles/d0ac83c38eae1c863a0e8ba33a9b1e572dc6cedf

 

  • 優雅に舞う「アサギマダラ」 宮崎市の民家にチョウの楽園 宮崎県(宮崎ニュース UMK 2022年5月24日(火))

https://news.yahoo.co.jp/articles/9f0ab403c4e73afd136457518698b15a7ecc097f

 

・ 2000キロを旅するチョウ 羽休めのポイントづくり 好物の花「フジバカマ」を小学生が植栽 (Yahoo! Japanニュース ・OBS大分放送 2022年5月24日(火))

https://news.yahoo.co.jp/articles/9f84e94c53f14d002de5f0d9b06c33c10e925084

 

2000キロを旅するチョウ 羽休めのポイントづくり 好物の花「フジバカマ」を小学生が植栽 (OBS大分放送 2022年5月24日(火))

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/obs/52837?display=1

 

  • 北へ行くのよ…旅するチョウ、アサギマダラ飛来 南さつま (南日本新聞2022年5月13日)

https://373news.com/_news/storyid/156018/

 

  • 喜界島のアサギマダラ徳島県で発見 昆虫愛好家、福島さんマーキング (南海日日新聞社2022年4月28日)

https://www.nankainn.com/news/weather/%E5%96%9C%E7%95%8C%E5%B3%B6%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%82%B5%E3%82%AE%E3%83%9E%E3%83%80%E3%83%A9%E5%BE%B3%E5%B3%B6%E7%9C%8C%E3%81%A7%E7%99%BA%E8%A6%8B%E3%80%80%E6%98%86%E8%99%AB%E6%84%9B%E5%A5%BD%E5%AE%B6

 

  • 旅するチョウ「アサギマダラ」 だれが放した? 鹿児島県本土→奄美大島・喜界・沖縄 羽にマーキングの3羽 (南日本新聞2022年3月07日

https://373news.com/_news/storyid/152670/

 

北上の新たな記録生まれる:台湾から鹿児島県奄美大島にアサギマダラ移動

この報告をずっと待っていたんですよ。

ついに台湾からのアサギマダラが7年振りに日本で再捕獲されたのです!北上の数少ない新たな記録が生まれました。

李信徳さんが426日、台湾陽明山国立公園・大屯自然公園で標識した「05YMS 4/26, 4/26 uT 05」が、鹿児島県奄美大島龍郷町で5月25日、安川憲さんによって再捕獲されました。オスの個体で、29日間で878.5 kmの移動です。安川さんが、Facebook アサギマダラ・マーカーの広場に掲載してくださっていますので、ぜひご覧ください。

安川さんが報告された「YMS」のマークを見た時には、胸が躍りました。「YMS」は、台湾の陽明山で使っているマークだからです。台湾から日本に移動して記録された例は、私の記録では今回の記録を含めてたったの6例です。そのうち李さんのマークは5例で、14年ぶりの快挙です。それほど少ないです。

国内でも、鹿児島県、宮崎県などで標識された個体が、徳島県や大分県などで再捕獲されています。国内であっても、秋のデータに比べたら、極端に数が少ないです。

北上の記録は、海辺の砂粒の中から宝石を見つけ出すようなもので、非常に貴重なのです。その一つのデータが今回記録されたという訳ですから、私の胸が躍ったこともお分かりになると思います。

海辺のスナビキソウや畑のスイゼンジナで出会うかも知れませんし、今回の安川さんのように山でツバキ科のイジュに訪花しているところに出会うかも知れません。

海岸や山に行ってアサギマダラを見た時には、ぜひマークを見つけましょう。台湾や南の暖かい地方からやってきた個体かも知れません。

安川さんは「アマミ タ5/25 KY456」の追記をして放蝶しています。皆さんが出会う可能性もあります。再々捕獲を期待してしまいます。

可能なら捕獲し、写真に撮ってぜひ報告してください。今回のような感動を、ぜひ皆さんにも味わってほしいです。

李さんも安川さんも、きっと昨夜は興奮して眠れなかったでしょうね。20年以上にも及ぶ李さんの長年の努力と、安川さんの奄美まで通う調査の努力が報われましたね。