アサギマダラの会の会誌Paranticaの公開

本会の会誌Paranticaは、現時点で9巻1号までが発行されていますが、発行から2年後に公開され、次のリンク、URLから検索可能なテキスト付きPDFがダウンロードできることになりました。

ParanticaのPDF

https://www.asagi-org.jp/~asagi/asagipara/

アサギマダラの文献調査にご活用をお願いいたします。

ホームページのリンク集にもリンクを記載しましたので、しばらくすると検索ページにも表示されるようになると思います。

本会は会誌Paranticaの他にも、会員向けの連絡誌「We love! アサギマダラ情報」なども発行しています。それらも徐々に公開する方向で準備を進めております。

ご期待ください。

フジバカマ園・アサギマダラの愛好者の集まり

私が調査所を設置している和歌山県でも、数年前から公共の公園や休耕田にフジバカマ類を植栽して、アサギマダラを誘引する団体や個人が増えてきました。個人的に庭にフジバカマ類を植栽する方は、昔から多くおられました。そこで再捕獲したアサギマダラの報告は時どきいただきました。しかし、休耕田や公園などの共用スペースに植えることが、最近とても増えた気がします。

2枚とも和歌山県上富田町興禅寺フジバカマの丘

和歌山県でも、日高町西山、上富田町興禅寺、和歌山市四季の郷公園など、数か所に植栽され、フジバカマ類の植栽方法やアサギマダラの標識方法などの質問を多くいただくようになりました。これは日本全国の傾向と思います。

各地からの質問に個別にお答えするのが大変なために、年数回集まって情報交換会を開催し、日頃は電子メールの「全員に返信」で情報交換を行っていました。昨年1年で参加者が15名ほどになり、さすがに「全員に返信」では、メールアドドレスの漏れが心配になってきました。それでメーリングリスト(ML)を考え始めました。

アサギマダラ関係のMLには、アサギマダラなどの移動昆虫のML (asagi → asagimadara) があります。アサギマダラ関係のMLとしては、最も早くに始まり、参加人数が最多です。アサギマダラの再捕獲情報(と標識情報)は、ここに報告すべきと思います。しかし、最近サーバが変更になって1日あたりのメール数が制限され、アサギマダラの再捕獲の最盛期の10~11月には、送信されないメールが多発するようになりました。エラーメッセージも返らない仕様のようで、とても困る事態が生じています。対策を苦慮しているところです。

訪花植物とはいえ、アサギマダラ関係の情報ですから、asagimadaraMLへ流すのが理想と思います。しかし、現状では通信量を増やすことはできません。そこで、グーグルグループのMLを活用することになりました。フジバカマ園・アサギマダラ愛好会がそれです。今年の1月に開始されました。再捕獲情報(と標識情報)は、なるべくasagimadaraMLへ流すこととして、こちらは訪花植物関係の情報に限る予定です。あるいは、両方のMLへ発信することにしましょう。

フジバカマ類の白絹病と連作障害の対策、スイゼンジナ類の栽培方法などが主な内容です。これらの情報は、日本全国のフジバカマ園、スイゼンジナ園でも必要な情報でしょう。そこで、和歌山県に限らず、日本全国、あるいは外国からでも参加できるように公開されています。参加は無料です。

参加されたい方は、p.niphonica@gmail.comまで、「フジバカマ園・アサギマダラ愛好会へ参加希望」という本文のメールをください。登録させていただきます。やはり、メールで届くと読みやすいと思います。MLのメールは公開ですから、詳しい住所や、電話番号などは署名欄から削除して発信してください。

よろしくお願いいたします。

 

和歌山県の低地にもアサギマダラが下りてきました!

昨日(10月4日)、急に気温が低下したせいか、和歌山県の低標高地にもアサギマダラが姿を現しました。

朝に田辺市龍神村殿原のフジバカマ園(標高360m)のコバノフジバカマの花に訪花したオスの写真を、管理者の杉本町子さんから送っていただきました。また、午後14時頃に日高川町美山支所前(標高150m)を飛ぶアサギマダラを目撃しました。この2点から、確実に低標高地に下りてきていることがわかります。

和歌山県の今年のアサギマダラについては、北上の季節である初夏には特に目立った目撃記録はありませんでした。8月末に次の新聞情報がありました。

旅するチョウ「紀州の屋根」に 晩夏の護摩壇山にアサギマダラが

護摩壇山山頂付近のヨシノアザミ

飛来、和歌山

護摩壇山のヨシノアザミの花が開花し始めて、8月28日にアサギマダラが集まっている(標高1200m付近)、という情報です。例年では、10月上旬に多数が通過するのですが、約1か月も早い出現です。9月下旬にこの記事を見つけて、私も慌てて護摩壇山に調査に行きました。

9月24日に白馬(しらま)林道を走って、「ごまさんスカイタワー」まで行きましたが、アサギマダラの姿を見ることはできませんでした。翌日、護摩壇山山頂に登っても、ヨシノアザミは開花していましたが、おりませんでした。

スカイタワー近くのスカイライン沿いにオタカラコウが開花していました。紀伊民報の写真では、9月中旬にオタカラコウに訪花しているアサギマダラが見られます。この日は姿を見ませんでした。

スカイタワー近くのオタカラコウ

10時頃に森林公園案内所近くで2頭目撃し、帰りに龍神スカイラインへ少し戻ったところでも2頭目撃しました。案内所の管理人は、アサギマダラが訪花するヨシノアザミを刈らないように注意しているそうです。8月末~9月下旬の間に少ないながらも数頭のアサギマダラが、オタカラコウや、森林公園のヨシノアザミに訪花し続けていたのではないか、と想像しています。これらのアサギマダラは、紀伊半島のイケマ、ガガイモなどのガガイモ類で育ったもので、日中でも25度以下の適温である山頂付近で上下動をしていたのでしょう。

標識したアサギマダラのオス

帰路の有田川町川合白井山の白馬林道(標高858m付近)で、ヒヨドリバナに集まってくるアサギマダラ6オスを標識しました。9月25日にはこのあたりまで下りてきていたことがわかりました。記録はアサギマダラ年鑑の2023年・和歌山県・標識で見ることができます。

秋の本格的な移動シーズンを迎えた和歌山県では、次のイベントが予定されています。

10月14日(土) 10時~ 「アサギマダラ祭り・小町カフェ8周年」(田辺市龍神村殿原のフジバカマ園)

10月22日(日) 10時~ 「第2次観察会:アサギマダラ西山観察会」(日高町西山アサギマダラの谷、参加受付終了)

10月29日(日) 10時~ 「アサギマダラ祭り」(上富田町市ノ瀬だるま寺)

いずれも移動の最盛期に開催されます。満開のフジバカマ類の花と訪れるアサギマダラを見に、あなたも出かけてみてください。マーキングをされる方は、撮影している人の邪魔をしないようにお願いいたします。

朝ドラ「らんまん」と大河ドラマにアサギマダラが登場

以前、NHKの連続ドラマ(通称「朝ドラ」)のオープニングにアサギマダラが登場したことを紹介しました。

すでにご存知の方が多いと思いますが、今放送中の朝ドラ「らんまん」のオープニング映像に毎回アサギマダラが登場していますね。アサギマダラが登場するのは、オープニング映像が開始されて約12秒後から約1秒間です。コバノフジバカマと思われる植物の花に主人公の槙野万太郎が座っていて、その近くをオスらしいアサギマダラが飛びまわります。実際の飛翔映像を撮影して、主人公の映像を合成したのでしょうね。ご覧になったことがない方は、ぜひご確認ください。

ところで、モデルの牧野富太郎は、北隆館の有名な牧野植物図鑑の著者ですね。私が最初に買った植物図鑑が牧野図鑑でした。高知県や太平洋岸の植物が中心に掲載されているので、日本海側の植物を調べると、あまり載っていないことが多かった記憶があります。しかし、植物の図は出色のできでした。東大で苦労しながら、植物学を前進させている今回のドラマの内容は、アサギマダラを愛好している私たちも共感できるものと思います。今後、ドラマの中でフジバカマ類が取り上げられることを祈りたいと思います。

実は、今放送中の大河ドラマ「どうする家康」(3月12日放送回)にアサギマダラが登場したのです。これも報告しなければ、と考えていましたが、録画を消してしまい、正確な記述ができなくなっています。記憶から呼びおこすと、そのシーンはオープニング映像の後の数秒間だったと思います。家康の正室の築山殿が暮らす築山の屋敷の庭を1頭のアサギマダラが飛びました。

ところが、6月18日の放送でも、やはり築山の屋敷の庭のナデシコのような花ばなの上で、アサギマダラが1頭フワフワと飛ぶシーンが出てきました。番組開始約30分後あたりで、登場シーンは約10秒ほどでしょうか。けっこう長いですね。サクラ?の花びらが散っていましたから、4月頃でしょうか。散っているのがモモの花びらであれば、もっと後の季節でしょう。

ナデシコ類にアサギマダラが訪花することは聞いたことがありません。しかし、ウィキペディアによると、築山は「岡崎城の北東約1キロほどに位置する、岡崎市久右衛門町であったとされる」とのことです。有名なアサギマダラの集結地である西尾市東幡豆町の三ヶ根山に近い場所ですから、アサギマダラが通過しても不思議はありません。

この後、ストーリーとしては、築山殿の殺害と息子・信康の切腹があるはずです。原因とされるのは、武田勝頼との内通のようです。武田の本拠の甲府は、岡崎の築山から北東ですから、アサギマダラの南西・北東?への移動習性を理解した上で、登場させているのであれば、なかなかのドラマと言えると思います。単純にチョウと言えばアサギマダラ、ということで登場させているのであれば、…ですね。アサギマダラの愛好者としては、うれしいことですが。

私はNHKのまわしものではありませんが、3回目の登場もあるかもしれませんので、皆さんもご覧になってください(笑)。

アサギマダラが蛹になりました!

 

蛹化の翌日の写真

飼育・観察していた幼虫が、4月18日午後についに蛹になりました(左の写真)。きれいな緑色のだるま形の蛹です。数日すると成虫が羽化するでしょう。蛹になりたてなので、まだ黒い紋や、銀色の紋が目立ちません。

前報で報告したように、野外で発見した3齢幼虫を室内で飼育・観察しています。食草のキジョランの小株を鉢植えにして、そこに幼虫をつけてやりました。幼虫は葉の中央の脈をかじって、V形の食痕をつくりながら、どんどん成長しました。そして、食草を離れ、近くにあった時計の表面に静止して、脱皮の態勢となりました(下写真)。

脱皮態勢の3齢幼虫。右へ90度回転したもの。

頭部の次の前胸のあたりがふくらんでいるのは、4齢幼虫のヘッドカプセルがすでに形成されつつあるからです。4月2日に4齢幼虫になり、またどんどんキジョランの葉を食べました。そして葉の裏側の中央で脱皮態勢となりました(下の写真)。脱皮の際に食草から離れると思いましたが、食草上で脱皮することもあるとわかりました。

葉の中央で脱皮態勢の4齢幼虫。180度回転したもの。体長約20mm。2023:04:09 10:17:47

この写真は、前胸のあたりの終齢幼虫の頭部のふくらみがわかりやすいですね。3齢幼虫との違いは、腹脚のある腹節の背面の斑紋が白色でなく、他の節と同様に黄色であることです。また、前胸あたりにある突起が頭部の長さより長いことでしょう。3齢幼虫では、頭部と同じくらいですね。

4月9日に終齢幼虫となりました。終齢の5齢幼虫は、食欲がすごく、葉柄をかじっては、先端部から葉の全体を食べてしまいます。キジョランの小さな株だったので、全て食べつくしてしまうのではないかと心配しました。3齢後半~5齢の最後までに、小さめな葉をほぼ5枚食べました。そして、巨大な幼虫となりました(下の写真)。

5齢幼虫は側面の黄色紋がうすいですね。ストロボの発光の影響もありますが、区別点になると思います。脱皮したては齡の間の違いがわかりにくいことがあります。脱皮したての4齢幼虫は、3齢と同様に背面の黄色紋が白っぽかった気がします。

葉を食べつくした5齢幼虫。体長約45mm。2023:04:15 19:21:24

葉を十分食べて、鉢植えの鉢のへりを歩いているのを見つけました。蛹になるときに食草から離れることが知られています。蛹化や羽化の様子を観察したいので、見失わないように、透明なプラスチック容器に入れました。そして、ついに蛹になったわけです。

前報でも書きましたが、室内の方が野外より気温が高くて成長が早いですから、ちょうど野外ではこれから終齢幼虫が蛹になるところでしょう。ぜひ見つけてみてください。

春のアサギマダラの幼虫を発見するのは今だ!

越冬したアサギマダラの幼虫がちょうど今頃に終(5)齢幼虫になります。幼虫の大きさが最大になる今が、アサギマダラの幼虫を探すのに一番いい時期でしょう。お近くの低山地にキジョランがあれば、ぜひ探してみてください。

先日の3月30日に私も和歌山県日高川町熊野川の標高約500mの林道脇(右写真)でキジョラン上の幼虫を発見しました。

そこは前からキジョランが数株生えていて、3年ほど前に幼虫を2頭ほど発見したことのある場所です。今年も円痕がたくさんあり、3齢幼虫を1頭見つけました(下写真)。

写真がうまく撮影できなかったので、葉を取って、道路に置いて撮影しました(下写真)。

この幼虫は、昨年秋11月頃の南下シーズンにこのキジョランを探し当てたメスが産卵した卵から孵化したものでしょう。1~2齢の若齢幼虫で今年1月の寒波をのりこえて、春の陽気でどんどん成長しているところだったと思います。

今、この幼虫を室内で飼育・観察していますが、4月2日に脱皮して4齢幼虫になり、4月9日に終齢幼虫となりました。室内の方が野外より気温が高くて成長が早いですから、ちょうど野外ではこれから終齢幼虫となる4齢幼虫が多いと思います。

アサギマダラの幼虫を発見するのは今です。お近くのキジョランを調べてみてください。キジョランはどこにでもある植物ではありませんが、関東以南の低山地を探せば見つかるはずです。新鮮な食痕があれば、幼虫が発見できると思います。

オスの占有飛翔

昨年(2022年)の10月頃にアサギマダラのメスの占有飛翔らしきものを観察した記事を書きました。この小文では、よく見られるオスの占有飛翔について簡単に紹介します。

私が初めて占有飛翔を見たのは、今から約40年前の10月頃のことでした。大阪府箕面市の瀧安寺の林の中の空間を1頭のオスがクルクルと飛んでいました。多分、晴れた午後早くの時間帯だったと思います。

そこは広葉樹林の中でぽっかりと開けたところで、中央に枯れた高木が1本立っていました。そのアサギマダラは急速な円形飛翔や、8字飛翔をしては、時々中央の枯れ枝で休憩していました。その飛翔の懸命な様子がとても印象に残りました。メスを待ち受けていたのでしょう。

この現象から、移動最盛期にオスは先回りして、林の中の開けた空間で占有飛翔を行い、通過するメスを待って配偶行動を行う、と考えました。そのような日だまり空間では、アサギマダラの食草であるキジョランなどのガガイモ類が芽を出し、メスが飛来しやすいのでしょう。

それからしばらく経ち、観察経験が増えるに従い、占有飛翔らしき飛び方を何回も見ることがありました。箕面市の瀧安寺で観察した典型的な占有飛翔は少なく、アサギマダラのメスが多い、金剛山の林道上空や、滋賀県のびわ湖バレイでは完全に林内で占有飛翔が見られることもありました。たいてい午後でした。

昔、アサギマダラの交尾行動の観察例をまとめたことがありました。交尾行動の時期は季節に関係なく、アサギマダラが活動する期間全般にわたっていました。アサギマダラは休眠性がありませんので、羽化して2週間ほどで成熟すると、一年中配偶行動をするのでしょう。

午前中に吸蜜した後、午後にオスが占有飛翔して、そこにメスがやってきて交尾にいたるのだと思います。それでも交尾できないメスが非常にまれに占有飛翔?を行うのかもしれません。

皆さんはどう思われますか?

明けましておめでとうございます!

遅ればせながら、新年のお慶びを申しあげます。本年もこのブログ、アサギマダラの会をよろしくお願いいたします。

私事ですが、和歌山県に設置した調査所を年末に転居する必要に迫られ、ようやく近くの新居への移転が終了して、機能するようになりました。

コロナ禍の中でしたが、和歌山県での調査所生活も3年が経ち、アサギマダラを愛好する地元の多くの方々と知り合うことができました。和歌山県ではフジバカマ園が続々と開園し、とても盛り上がっています。皆さん、とても熱心で、大阪に比べて地の利もあり、今後の発展がとても楽しみです。

ウサギ年の今年は飛躍の年になるでしょう。みんなでアサギマダラ調査を楽しみましょう。

アサギマダラの移動と風向

アサギマダラは風をうまく利用して移動しているようです。私は日本に生息するチョウの中で最もうまく風を利用できるのがアサギマダラだと思います。今回は風の向きの影響を考えてみます。

10月の南下移動の最盛期には、急速に南西方向へ移動します。北東からの風にのって高いところを飛ぶようです。その様子はほとんど観察されることはありません。渡り鳥に比べると、小さなアサギマダラを観察するのは、とても困難なのです。

北東以外の風、特に西風が吹いている場合には、地上約10mくらいの比較的に低い高度をバタバタと飛びます。愛知県の伊良湖岬の灯台付近(上の写真)でよく見ました。10月中旬の伊良湖岬ではたいてい西風が吹くのです。そのようなときは、灯台より上の林道に咲くヒヨドリバナ類に訪花するアサギマダラが多いようです。吸蜜しながら、風待ちをしているのでしょう。翌日に北東風が吹くと、すっかり姿を消すことがあります。

先日、11月9、10日に和歌山県南端の潮岬の灯台付近で観察しました。9日の午前中は晴れており、昨年の同時期よりは少ないですが、数頭のアサギマダラが灯台付近で見られました。

翌10日は9時前から短時間の観察を行いました。この日は曇りの天候で海岸付近はほぼ無風でした。そこを2頭ほどのアサギマダラが立て続けに海に出ました。1頭目は50mくらいのかなり高いところをゆっくり飛びました。2頭目は数mくらいの高さで海に出ました。その後すぐに海から陸地に戻るアサギマダラを3頭ほど見ました。海に出た2頭が、戻ってきた3頭のうちの2頭なのかはわかりません。しかし、無風状態で海から戻るアサギマダラが短時間で3頭もいたことは事実です。

この事実から、アサギマダラは海に出て、風向きが適さないと陸地に戻るのだろうと考えました。さらに観察例を増やす必要があります。

アサギマダラ♀の占有飛翔?

10月11日にアサギマダラの♀が3回ほど占有らしい飛翔をしていたので報告します。

アサギマダラの♂が占有飛翔を行うことはよく知られています。それに対して、今回観察したのは、♀の占有飛翔らしきものなのです。和歌山県日高川町猪谷という場所で、林道です(右写真)。ここは林業関係者の方から教えていただいた地点で、急な崖にヨシノアザミとヒヨドリバナがそこそこ咲いています。以前に1日で10頭くらい標識をつけたことがあり、この日もそのくらいは標識できるだろうと8時半頃には到着しました。天候は晴れ時々くもりで、気温15℃で湿度57%でした。すでに1頭が飛んでいました。慌てて車を降りて、ネットを出している内に飛び去ってしまいました。それからしばらくは1頭も現れませんでした。

9:20頃にようやくが飛来して、ヨシノアザミに来たところを捕獲し、「IKA 003 HDG 10.11」と標識しました。前翅長61mmと大きく、新鮮で破損なしの未交尾個体でした。ヨシノアザミの花に付けて放蝶すると、すぐに姿を消しました。

9:40頃にまた姿を現し、ヨシノアザミで吸蜜していました。あちこちの花で吸蜜した後に、9:44に上空の10mくらいの高度で2~3回ゆっくりと円形飛翔を行いました。短時間枝先で休憩した後に9:47にまた占有らしい飛翔を行いました。この時点でこれは♀の占有飛翔かもしれないと考え、写真・動画撮影を試みることにしました。10:12にも占有らしい行動が見られましたが、ずっと撮影モードにしているわけにいかず、撮影モードにするのに時間がかかり、撮影は困難でした。

占有飛翔らしい行動はこの3回だけで、この♀はこの後ずっとヨシノアザミでの吸蜜を繰り返しながら私がこの現場を離れる午後2時前まで滞在し続けていました(下の写真)。

ここで♂でも現れれば配偶行動が見られたかもしれませんが、残念ながら1頭も出現しませんでした。つまり、この日はこの1♀だけの標識でした。

♂の占有飛翔に比べると、8の字型飛翔はなかったこと、飛翔速度がゆっくりしていたこと、枯れ枝で静止せずに、吸蜜したり、枝先で静止したりしたことです。

この日は天気予報では、気温が低く、4m/sの北北西風ということで、アサギマダラは急速に南下してしまったような気がします。

このような観察事例を増やし、共通点を探し出す必要があるでしょう。これが♀の占有飛翔だとすれば、未交尾の♀が配偶相手を探す行動だと考えられます。